北村周一のブログ《フェンスぎりぎり》

フラッグ《フェンスぎりぎり》展へようこそ。現代美術紹介のコーナーです。とりわけ絵画における抽象力のリアルについて思考を巡らしたい。またはコーギーはお好き?

2013-01-01から1年間の記事一覧

80 霽月や下田にひとりおとうとが島田にひとりいもうとが居り

短歌楽第80号。 はや、初冬。 霽月(せいげつ)や下田にひとりおとうとが島田にひとりいもうとが居り 兄妹(けいまい)の寄り添うに似て指小辞のひとつletはbookを慕う 窓辺ちかき柱時計の螺子を巻く顔を上げれば蠟梅の花

79 魂のぬけ殻でしょうか葉先より葉枯れせしこのアガパンサスは

短歌楽第79号、晩秋篇。 胸のべにふれんばかりに伸びいたる花のコスモス盛りは過ぎつ 魂のぬけ殻でしょうか葉先より葉枯れせしこのアガパンサスは 童謡のかずだけ白秋がいるようなあきのふかまり、〈恋文〉を読む

78 川の上に滝はなけれど夜の淵を溢れつづけるナイアガラ万歳

短歌楽第七十八号刊。冬の花火と夏の花火、川の花火と、湖や海の花火、思い出しつつ三首詠。 気短なロケット花火に火を点けて宙に放てば隣家へくだる 川の上に滝はなけれど夜の淵を溢れつづけるナイアガラ万歳 むきむきに花火する処女浜に坐し風呂あがりの腿…

77 きいていてほしいことがあるのよ、午前零時庄や禁煙席にけぶれる

短歌楽第七十七号刊。楽しみは後に残しておくタイプ、血はみずで洗いながしおくべし。三首詠。 きいてほしいことがあるのよ、午前零時庄や禁煙席にけぶれる ほんとはねっていい合いにつつ日に三度生き別れたりひとりのひとと SFの世界の中に生き延びていた…

76 肥大せし絵画空間そのように棚の画集が棚に収まる

短歌楽第七十六号刊。どんどんどんどんおおきくなあれ、といわれても、身近なところで三首。 肥大せし絵画空間そのように棚の画集が棚に収まる 週毎にかわる展示を楽しみに銀座京橋画廊界隈 銀座線を銀座で降りて神田まで画廊をめぐる 三越はふたつ

75 三保沖にしらすを掬いそを茹でて日々のくらしは海に賄う

短歌楽第七十五号刊。些事ではあるが、積み重なると困ったことになる、外からの音はとくに制御不能ゆえに。つづけて三首。 写真は、瀬戸内海の島々。 三保沖にしらすを掬いそを茹でて日々のくらしは海に賄う 漁終えてガラス徳利一合の酒をくきくき飲み干すこ…

74 河原べに獲物をならべて獺のうからなにやらまつりごとめく

短歌楽第七十四号刊。高収入の人ほどよく笑うってほんとうか、三首詠。 河原べに獲物をならべて獺のうからなにやらまつりごとめく 野良犬のすがたあらざるこのあたり基軸通貨はワンならずニャア 朝起きて夕の献立思案する吉本隆明氏的煩悩おもゆ

73 ああ「みやこ」、ひとつ話題に沸き上がる常連客の声音いやしき

短歌楽第七十三号刊。速読、即詠をこころがけている、秋である。以下三首。 ああ「みやこ」、ひとつ話題に沸き上がる常連客の声音いやしき とっくりの尻のラインを愛でにつつさぐる二合の中味のおもさ 最終の下り電車は遅れがちホームの客はみな西を向く

72 茹で上がりし笊のしらすを簾のうえに開けてほころぶおみならの声

短歌楽第七十二号刊。台風が多い今年、雨漏りが心配、雨男月並み三首。 茹で上がりし笊のしらすを簾のうえに開けてほころぶおみならの声 うで立てのしらすを口につまみ撮み干しゆく甘きこの茹でじらす 白秋の手になるひとつちゃっきり節いわゆるCMソングの…

71 わが名前のみの表札ひとつきをかけて彫りゆく檜の香のかおり

短歌楽第七十一号刊。大風に煽られて、表札が飛んでいってしまった。落葉のなかから拾い出す。きょうも三首。 わが名前のみの表札ひとつきをかけて彫りゆく檜の香のかおり なんらかの比重差のありて妻側へ傾ぎたがれる表札を外す 洗面の水にしずめし手の甲は…

70 頭上より生温き雨のようなもの降り出だしわれを見下ろす歩道橋上の老人(ひと)

短歌楽第七十号刊。何が起きるかわからない、まさか自分に、三首詠。 頭上より生温き雨のようなもの降り出だしわれを見下ろす歩道橋上の老人(ひと) ほこうきつえん窘めおれば携帯に写真撮られて通報されつ 黒白(こくびゃく)の諍いごとは果てるなく飽きる…

69 年熟れし者らのゆくえユニクロのユニセックスの装いに透けて

短歌楽第六十九号刊。一日一冊の本を読み終えることを、自らに課す、ストイックなきょう、きのう、おとつい。秋ど真中の三首詠。 年熟れし者らのゆくえユニクロのユニセックスの装いに透けて イラク戦見ていしわれとわが妻とジーコとザッケローニ、五十九 ザ…

68 運動のダンベル熟(こな)す夜夜にして肝斑(しみ)のCMテレビは流す

短歌楽第六十八号刊。睡眠生活の大事を思う、ながいながいねむりに就くまえに、いざ、三首詠。 運動のダンベル熟(こな)す夜夜にして肝斑(しみ)のCMテレビは流す しじみのちしみのCMしみじみと秋の夜長のBSテレビ おもいみればシミのCM美しく映せる…

67 此れの世の未来おぞましひとつふたつ撥ねてみたっていいじゃないばか

短歌楽第六十七号刊。アンテナの感度がいいと、こころによけいな負担がかかる由、くわばらくわばら、飽きもせず三首。 江戸萩とメドーセージがだらだらと靠れ合いつつ一夏終えたり 憑きものが落ちたみたいに唸り出す獅子身中の虫虫の音 此れの世の未来おぞま…

66 絵画とは洋画のことか、降る雨に額あじさいの挿し木はぬれる

短歌楽第六十六号刊。年若い人たちの歌集を読む、よろこびであるに違いない。つづけて三首詠。 絵画とは洋画のことか、降る雨に額あじさいの挿し木はぬれる レギュラーにかるく湯を足しわが前に運ばれ来たる亜米利加の味 一枚の重く濁れる油絵の色のかさなり…

65 みちみちに端折りながらにかなしみは微分してゆくあるく速度で

短歌楽第六十五号刊。散歩してきたら、もっとおいしくなっているはず、三首詠。 画板胸に抱えて子らは中庭に わたり廊下のしずかなことも みちみちに端折りながらにかなしみは微分してゆくあるく速度で かぎりなく平らかなるをかげとよび絵ふでにひろう繋が…

64 ここからは画家の領分かがみとのさみしき距離をつめつつ描くは

短歌楽第六十四号刊。喋り過ぎるとつかれるけれど、話したい、肉声は耳に残りやすいのどの奥にも、で以下三首。 どこまでが顔なのかなと触れているみみのましたの顎のつけ根 ここからは画家の領分かがみとのさみしき距離をつめつつ描くは なぜかしらん無性に…

63 ななめ左向いてなに待つ手鏡のなかのわたくし絵筆手にして

短歌楽第六十三号刊。日本酒がやっぱりおいしい、「あきぃ」とう季節になりました、都合三首。 ななめ左向いてなに待つ手鏡のなかのわたくし絵筆手にして かさねゆく絵の具の厚み鼻先はかがみよかがみ 線描の的 喘ぎつつジャコメッティが口走る はなさきがす…

62 いまいちど絵を掛けなおす初個展壁にぴーんと糸張らしめて

短歌楽第62号刊。きのうはじめて歌会に出た、声と言葉の饗宴であった。以下三首。 アトリエの水場にちいさき蜘蛛ありて餓死を選びぬ巣より零れて いまいちど絵を掛けなおす初個展壁にぴーんと糸張らしめて 芳名簿白紙一枚とび越してサインしてあり さくら…

61 桃太郎もルイ60もあかあかとごらん表紙の写真のとおり

短歌楽第六十一号刊。家庭菜園をたのしもうの巻、腰を痛めずに、以下三首。 桃太郎もルイ60もあかあかとごらん表紙の写真のとおり テキストの絵図を頼りにちょきちょきと二花房摘心三段仕立て ジグザグに伸ばす枝先はやも実がトマトつつましコンテナ育ち

60 母国愛曇る自己愛熱きその息もてふねの小窓を磨く

短歌楽第六十号刊。いつのまにか秋のよそおい、相変わらず三首。 母国愛曇る自己愛熱きその息もてふねの小窓を磨く 斉唱は義務の日この日二度までも園児を園に起たせながらに 自動車の行き交うところをわずかばかり削って歩道となせば自転車

59 ひとつきほど溜めた新聞読み終えて眼摩れば来世がかすむ

短歌楽第五十九号刊。日々のことごと、つれづれに、三首詠。 毎日を朝日日経神奈川ときたりてしばし東京に落ち着く ひとつきほど溜めた新聞読み終えて眼摩れば来世がかすむ 三百年以上噴火の史実なき冨士のお山のお鉢を覗く

58 黙しつつメール打つ音妻にしてだれも居ないと思った部屋に

短歌楽第五十八号刊。忘れる勇気を持つべし、以下三首。 黙しつつメール打つ音妻にしてだれも居ないと思った部屋に のびて来し妻の手掃うゆめながら窒息寸前点鼻薬さす ノズル向けて放ちやるわが点鼻薬の威勢はよろし日に三度まで

57 思い出すたびにクシュクシュ窓の向こうスギの木の枝にうごく花叢

短歌楽第五十七号刊。アレルギーについての考察、三首詠。 思い出すたびにクシュクシュ窓の向こうスギの木の枝にうごく花叢 杉一樹満遍無く花ひらかせて家のさかいのフェンス乗り越ゆ 雪を掻くシャベルの音いろみちみちに響く半時ばかりを眠る

56 灯が点り〈ファイヴ・スポット〉ゆうつかた音が氷に溶けてゆく音

短歌楽第五十六号刊。「JAZZ FIVE SPOT」 という名の小さな喫茶店が清水の町にあった。スタンダードな曲が似合いそうな晩夏、以下三首詠。 灯が点り〈ファイヴ・スポット〉ゆうつかた音が氷に溶けてゆく音 踏切の開閉みつつ無為という空気をふかす嵌め殺し窓…

55 一年中くびにスカーフ巻きつけてカウボウイはあり 顔覆うため

短歌楽第五十五号刊。乗り物酔いには気をつけようの巻、三首。 一年中くびにスカーフ巻きつけてカウボウイはあり 顔覆うため 愛車わがブルーバードは黄色(おうしょく)にして手を上げている青い眼のひと 歯ブラシを這わせながらにジムニーのボディは隈なく…

54 スーパーに白装束の一団が来ており例のオウムの子らも

短歌楽第五十四号刊。西暦1995年、何しろいろんなことがありました、三首詠。下は、その当時の絵。 一月地震三月サリン九月には父の死ウインドウズ九五の年 スーパーに白装束の一団が来ており例のオウムの子らも 一家族乗せて飛び出すワゴン車のしろきま…

53 歩を停めてともにみいりし蝉殻のふたつみつよつ 〈楽〉のいた日々

短歌楽第五十三号刊。つつしみぶかく生きよと、誰かが言った。ぼくではない、の巻、三首。 歩を停めてともにみいりし蝉殻のふたつみつよつ 〈楽〉のいた日々 瀝青のにおい重たき雨の日の路に消えゆく霊柩車ひとつ 日に出でてひらくケイタイ義父の死のちかき…

52 内向の性を問われし日のゆうべ 責任感のつよい蝉たち

短歌楽第五十二号刊。もっと静かなところで暮らしたい、と思う人は多い、以下三首。 内向の性を問われし日のゆうべ 責任感のつよい蝉たち ひらかれし扉の向こう 日に蔭に庭を横切る尼僧と神父 祭壇の背後に回りかくれがのごとき小部屋に私服にもどる

51 むきむきに茹で玉子の殻剥き合いてパステル色は春の誘い

短歌楽第五十一号刊。カトリック教会の四季をうたう、三首詠。 むきむきに茹で玉子の殻剥き合いてパステル色は春の誘い 汗に赤くかぶれた僕の背を見ては面白がっている信者の子 まずしければ貧しきなりに身を寄せて降誕祭の小夜待つ日々は