2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧
短歌楽第五十八号刊。忘れる勇気を持つべし、以下三首。 黙しつつメール打つ音妻にしてだれも居ないと思った部屋に のびて来し妻の手掃うゆめながら窒息寸前点鼻薬さす ノズル向けて放ちやるわが点鼻薬の威勢はよろし日に三度まで
短歌楽第五十七号刊。アレルギーについての考察、三首詠。 思い出すたびにクシュクシュ窓の向こうスギの木の枝にうごく花叢 杉一樹満遍無く花ひらかせて家のさかいのフェンス乗り越ゆ 雪を掻くシャベルの音いろみちみちに響く半時ばかりを眠る
短歌楽第五十六号刊。「JAZZ FIVE SPOT」 という名の小さな喫茶店が清水の町にあった。スタンダードな曲が似合いそうな晩夏、以下三首詠。 灯が点り〈ファイヴ・スポット〉ゆうつかた音が氷に溶けてゆく音 踏切の開閉みつつ無為という空気をふかす嵌め殺し窓…
短歌楽第五十五号刊。乗り物酔いには気をつけようの巻、三首。 一年中くびにスカーフ巻きつけてカウボウイはあり 顔覆うため 愛車わがブルーバードは黄色(おうしょく)にして手を上げている青い眼のひと 歯ブラシを這わせながらにジムニーのボディは隈なく…
短歌楽第五十四号刊。西暦1995年、何しろいろんなことがありました、三首詠。下は、その当時の絵。 一月地震三月サリン九月には父の死ウインドウズ九五の年 スーパーに白装束の一団が来ており例のオウムの子らも 一家族乗せて飛び出すワゴン車のしろきま…
短歌楽第五十三号刊。つつしみぶかく生きよと、誰かが言った。ぼくではない、の巻、三首。 歩を停めてともにみいりし蝉殻のふたつみつよつ 〈楽〉のいた日々 瀝青のにおい重たき雨の日の路に消えゆく霊柩車ひとつ 日に出でてひらくケイタイ義父の死のちかき…
短歌楽第五十二号刊。もっと静かなところで暮らしたい、と思う人は多い、以下三首。 内向の性を問われし日のゆうべ 責任感のつよい蝉たち ひらかれし扉の向こう 日に蔭に庭を横切る尼僧と神父 祭壇の背後に回りかくれがのごとき小部屋に私服にもどる
短歌楽第五十一号刊。カトリック教会の四季をうたう、三首詠。 むきむきに茹で玉子の殻剥き合いてパステル色は春の誘い 汗に赤くかぶれた僕の背を見ては面白がっている信者の子 まずしければ貧しきなりに身を寄せて降誕祭の小夜待つ日々は
短歌楽第五十号刊。夏の記憶、あれこれ三首。 ふるさとは例えば路地の片かげり北に海もつ町は気だるく 欄干にゆびの爪など擦りつつわたる石橋 川向こうまで 天降る神の子のごと嫋やかに野道を来たり 愛されたくて
短歌楽第四十九号刊。ホザンナとは、救い給えの意。以下三首詠。 父母と別れてひとり告解へ罪の赦しは共にひとしく 天のいと高き処に幸あれと祈り続ける祈るべき人 声のみの夕蝉の声こつねんと谺は無口な少年を追う
短歌楽第四十八号刊。夏の終わりは、能登の夕暮れ、以下三首。 わが胸に連なり来たる木立ありてホウシツクツク罪説く時間 山ひとつ時雨れ鳴く見ゆおおいなる蝉が神父の声まねており 透き通るほどのうすずみその翅のいろに昏れゆくカナカナの声
短歌楽第四十七号刊。いちど憶えたら忘れないうたのかずかず、をうたう。以下三首。 われに手を翳したる者ききなれし声に囁く小窓を開けて われと知る誰か見ておりホーザンナ塔より高きところを仰ぐ 川の面をわたるうつしみくらぐらとありて漂う橋のかたえを
短歌楽第四十六号刊。カトリック清水教会に通いしころのことごと、三首。 みみもとに残る余韻は引き綱におさめつつあり ミサが始まる 日曜の朝を空しく鳴くセミの声をしずめに教会へ入る 塔の下に笑みもてしばし集い来し信者らの声 鐘鳴るなかを
短歌楽第四十五号刊。同窓会の巻、三首。残念ながら行った事がないけど。 同窓会の通知手にしてなにがなしおもうことあり 根に持つごとく たまたまに小、中、高の各々より案内来ており 華甲の宴 上級生の吐息が重い 裏切るな 捩じ曲げられたる人差し指に
短歌楽第四十四号刊。夏の終わりをうたおうの巻、都合三首。 招かざる客かよひとりさむざむとエアコンの口あおげるおれは 図書室の歌誌をひらけば黒髪のしおりがひとすじ夏ページにて ねてはさめさめてはみいる銀幕の繋がるまでの撓める時間
短歌楽第四十三号刊。量と質の調和を目指す、三首詠。 銀行のカレンダーにて親しむる日本画日本人の美意識 壁一面所狭しと絵がならびさらに貼りつく金銀の短冊 サヨウナラかかるタイトル掲げては個展たびたびひらく画家おり
短歌楽第四十二号刊。晴れ晴れと、五月をうたう、なにはともあれ三つ。 目には青葉 響動めき渡る万歳のこえはどこから武道館前 こころせよだれが言ったか象徴の人は別段何もいわない 相模原上空を飛ぶ人民機かくもすずしき高度を保つ
短歌楽第四十一号刊。季節はずれの、12月をうたう、三首。 臘月やバックしますの電子音ちぢにみだれて路上を塞ぐ 日捲りをめくりわすれていちどきに破らんとするに力の籠れる ロマンスカー一駅とおく乗り越してありく家路はせつなく遠し
短歌楽、第四十号刊。 劇画調なれど晩夏をうたう、とまれ三首。 夾竹桃 ふたいろあわく入り混じるその花かげに求め合う肌 ストレート・ノー・チェーサーと決めていた狂えるほどに冷静に 夏 線路沿いのフェンスにおまえを押しつけて過ぎる電車の影をゆれあう
短歌楽第三十九号刊。能登の夏をうたう、いつもの三首。下、琵琶湖を望む。 この辺りに産婆なるひと住まいたり 母とわれとを取り上げし人 浦山の社のわきの細き道上るわがあり 母生れし町 じわりじわり昇り詰めつつ奥能登に盆の踊りの夜のめぐり来