四百七十五日目。梅雨の合間の一仕事。
『線描の的』 全十五首公開。(2013年初出)
ゆあがりの腰にタオルを巻きながら十字を切るごとぬぐうすがた見
絵画とは洋画のことか、ふる雨に額アジサイの挿し木はぬれる
アトリエの水場の蜘蛛は老いたれば餓死をえらべり巣より零れて
いまいちど絵を掛けなおす初個展壁にぴーんと糸張らしめて
芳名簿白紙いちまい飛び越してサインしてあり さくら五分咲き
画板むねにかかえて子らは中庭に わたり廊下のしずかなことも
みちみちに端折りながらにかなしみは微分してゆく歩く速度で
かぎりなく平らかなるをかげとよび絵筆にひろうつながり止まず
きずあとの一つ一つをしずめゆくごとき感触ふでさきにあり
ななめ左向いてなに待つ手鏡のなかのわたくし 絵筆手にして
かさねゆく絵の具の厚み鼻先は かがみよかがみ線描の的
喘ぎつつジャコメッティが口走る はなさきがすべてもっとも近い
どこまでが顔なのかなと触れているみみのましたの顎のつけ根
ここからは画家の領分かがみとのさみしき距離をつめつつ描くは
なぜかしらん無性に腹に据えかねて鏡をみがく身の透けるまで