四百七十四日目。梅雨に入ったそうな。
『そらのくうはく』 全十五首公開。(2014年初出)
身にふかく落ちてはひらく点描の雨はしばしばこころにも降る
ふいの死のおもみをはかり損ねつつもどす受話器の意外な重さ
きみの死の日より数えて三日余り雨、雨、雨がふり止まぬなり
ワイパーの音に紛れて降りつづく雨の中なる義弟(おとうと)の家
ここにはもうきみはあらずや窓のそと泳ぐ視線のさきざきに雨
六月の雨に濡れたる家々のしずかなること 義弟先立つ
庭を降る雨と語らうひとときを笑まうきみあり写しえのなか
低い声にときおり和する高い声だれもが認め合うために 死を
折り方を思い出しつつオリヅルは通夜をいろどる言葉となりぬ
いもうとよぽつりぽつりと風呂桶に落つる水滴死に切れずあり
あかときのホテルに眠るうつしみの生きるというは音立てること
折り畳み傘をひらいて雨のふる死者の側へとそを差し出す
任意の点見失いたるひとつぶの雨の軌跡をてのひらに受く
止むかしら 青み帯びたる水無月の空にちいさく息を吐くひと
一台の特種用途車しみじみと見送りしのちのそらのくうはく