線の配合―北村 周一展に寄せて
線の配合
画面上の二本の線。一か所だけで交わり、まがりくねりながら画面を徘徊し、それぞれ上下左右にぬけてゆきます。二本の線は面を分けているのでも囲っているのでもなく、また地でも図でもなく瓦いに等価値のものとして存在します。
制作は筆触をかさねていくことから始められます。このもっとも初源的な画面とのかかわりは赤い油彩えのぐからはじまり、黄色へとつながり、青で終わるというプロセスをたどります。この過程で絵画内部の複数の層を往還する独特な線が導き出され、その線が彼の視覚・知覚の総体をになう重要な媒体となります。
知覚の背後にあって支え合うもの―時間、空間、記憶、あるいは生活そのもの―彼の身体というフィルターを通過したありとあらゆるものを、絵画を描くという行為を通して画面上に対象化し構造をあたえようとする試みが、制作の主題になっています。描くほどに深まる画面の“向こう側”への関心。それは“向こう側”をひらくことによって、作者自身の意識にものぼらない次元のリアリティとの対峙を果したいという意志によるものでしょう。
いたってシンブルな作品の外見。ゆたかなみずみずしさを内部から発し、しかも日本的な湿度を感じさせません。既存のスタイルに寄りかからずに普遍性を追求することで、絵画のゆたかさを志向しています
。
北村周一は、厳密な方法論を用いながら、形式主義的な閉鎖性におちいることなく絵画のダイナミズムを模索しています。
ギャラリー檜 高木久仁子
会期/1999年3月15日(月)-3月27日(土)